2012.02.06

ただいま / Homecoming: The ‘Tadaima’ Moment

どちらかというといつも気難しそうに見える初老の男性が、ご自宅の玄関を入っていく姿を偶然見かけました。その玄関扉が閉まる前に、その方の「ただいまー」と言う声が聞こえてきました。その「ただいま」は、失礼を承知で表現すると、まるで小さな子どもが靴を脱ぎ散らかしながら親の元へ走っていく姿を連想するような温かい空気を感じました。
「ただいまー!」と言いながら玄関に入る家の風景を、近頃の私はあまり見かけていないことにふと気づきました。何よりも子供の時そうであったかもしれない自分が、今そういう「ただいま」を言っていません。
直接家族に対面してから言う「ただいま」ではなく、家に入りながら言う「ただいま」は、家という建物の中にある全てが自分の家であり、その全体に「ただいま」の挨拶をしているようにも感じられます。

「ただいまー!」の元気は、「おかえりなさい」と迎えてくれる温かい返事があるという安心感があってのことだと思います。玄関を入ったその時に迎えてくれる温かさが「ただいまー!」に繋がると思うと、その温かさは人がつくる温かさではありますが、建物を設計する立場にある私としては、「ただいまー!」と言える玄関、そして「おかえりなさい」と返ってくる家にできるだけ近づくご提案ができるようにしたいと思っています。

来客を迎える立派な玄関が必要な方もいらっしゃいますが、毎日家族を迎える温かい玄関を見つめ直すきっかけになった「ただいま」でした。

2012.(吉野 百合江)

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